春になっても世知辛い

150BAC7A-E73D-412B-9131-B78AF968F9ED.jpeg筒井康隆「残像に口紅を」 読了

俺にとっては別段用もない作家だが他に読む本もなく、仕方なく最近「パプリカ」他数冊読んでいた。この本に関しては、百ページほど読んで投げ出していたのを、思い出したようにこの二日で読み切った。意に反して中盤からは、さしたる主題もあるとは思えないこの作家の言葉の曲芸を遺憾無く見せつけられた。尊大で傲慢な印象を持つこの作家への世間に潜在する当時の反発や反感が、小説という虚構にこと寄せてそれとなく自慢話をされた挙句、どうだと言わんばかりに表現の魔術にねじ伏せられたであろうことが推察される。これが書かれたのが1989年であり、今から三十二年も前であることに驚くと同時に、まるで関心がなかったとはいえ筒井康隆一世一代の世間に対する挑発であったであろうこの作品など知りもせず、三十二年の時を経て今頃この本を読むこの俺も、相当な間抜けだと言わざる得ない。詳しいことは知るはずもないが、彼がこの後の断筆宣言や今に至る諸々の間にも、この本の上梓による勝利感を持続しているであろうことは想像に難くない。どうでもいいことだが。

人は誰でも気分良く生きたいさ

貧乏人も金持ちも
老いも若きも 男も女も
賢者も愚者も

その手段すらみんな同じだ

昔も今も
これからも

誰だって細やかな地位と幾ばくかの名誉に恵まれ
周りから尊敬され一目置かれて自らの尊厳を守り
健康と金と時間と空間に裏打ちされた自由を謳歌したい

平和ボケして平等意識や権利意識のみに洗脳された有象無象のボンクラが
際限もなく自分・自分と呪文を唱えながら世間の交差点に殺到する

誰もが気分良く生きることなど不可能だ

幾重にも階層があり階級があり格差がある
優越感と劣等感に揉みくちゃになりながら

自らを肯定するために、それでも気分良く生きるために
自らにあるもので他者にないものを攻撃し愚弄する

若きは老いを、健康な者は病人を
金持ちは貧乏人を、大企業の社員は中小零細企業の従業員を
学歴、容姿、家柄、etc

とどのつまり生きることの本質は愚弄し合い
勝った負けたの日々なのだ

不条理にして不公平、且つ、競争原理があるだけの殺伐として不毛な人の世だ

だが、そうであったとして
作家・筒井康隆は選ばれし自分を誇示することだけに終始する退屈な男であるように思える

読んだ後も、どこか苦々しい

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この記事へのコメント

ママジャム
2021年04月11日 00:52
作家と称する者、まあそんなもんじゃあるまいか。言葉の遊びで、我が意を得たりと。本物は、一握り。