春か、夢か

D8E95AC1-C28A-4DB3-AD19-089C9201D5E6.jpeg春か

陽がだいぶ長くなった
いつも彼方に逃げていたかに見えた陽は
北風が舞う中で知らず知らずのうちに光を増していた
雪解けの水が集まりちょろちょろと沢を下り始めると
死んでいるかのように固まっていた寒空の下の無彩色な小世界が
静かなざわめきの中で色彩を伴いつつ徐々に流れ始めた

夢か

生きてこの深い穴蔵の底から
眩い外界に出ることができるだろうか
すべての植物の芽が光に向かって伸びようとするように
差し込む熱を孕んだ光は冷たい岩盤に張りついた俺に
遥か頭上にサファイアの如く輝く青空を仰がす

我が身を取り囲む無尽蔵な岩盤、希薄な空気、闇、低温、重力、時間・・
深い穴蔵の底が絶望の要件で埋め尽くされていることの
いまさらながら唖然とせざる得ない不思議

俺は石になりかけた肢体を動かそうとしてみる
このまま石になっても、それはそれでいいじゃないかと思いつつ
指を、腕を、足を、動かしてみる
動いたようでもあり、微動だにしてないようでもある

だが暖かい光の差し込む頭上の小さな青空を再び仰ぎ見るとき
植物が地中から地上に芽を出すように
暗く冷たい穴蔵の底からあの青空の外に顔を出せたら
どんなに素晴らしいだろう思ってしまうのだ

春か

毎年毎年、今年こそはと屹立したのっぺらぼうの岩に取りつき
転落して痛い思いをしてきたことを頭のどこかで思い起こしながらも
もう登る気で手足を動かしている

夢か

できる、できるさ
すべての植物が干からびた梢から、硬く冷たい地表から
瑞々しい芽を魔法のように出すように
俺もまた、あの眩い小さな青空の外に顔を出す

広く眩い、大きな、サファイアのような青空の下に立つ
そして、春の日差しを、全身に浴びる

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この記事へのコメント

ママジャム
2021年03月08日 07:25
必ず目を吹く。もうすぐ!サファイアのように。