コインロッカー・ベイビーズ 2

5FD84321-F1DB-4C49-95F5-B9535D436666.jpeg母親にコインロッカーに捨てられたという
これ以上の悲しみの刻印があるだろうか

乳児院という施設に保護されて
その手厚い施しによって奇跡的に生を繋いだ

里親に引き取られ、学校にも通わせてもらい、誰もと同じような家族も持った
そこに偽らざる無償の愛を見つけて、それでなんとか大人にもなれた

だが内なる精神の亀裂は広がるばかりであり
流れ出る血は止まることはなかった

産みの親に存在の承認を受けることが
この世に存在し、生きてゆく唯一絶対のパスポートではないか
だが俺を産んだその女はパスポートを発行するどころか明確にそれを拒否したのだ

自分とは何だろうか

キクは、何万回となく自問し
あるいはそれと同じだけ、そのことを忘れようとしたが
それは耳鳴りのように日増しに大きくなっていくばかりだった

捨て子である自分には、生きる、生きていく根源的な力が
欠落、あるいは壊死、でなければ何かに封印されているのだ

それを見つけ出し、それに火を灯し
それを解放してやらなければとても生きていけないと知っている

自分を救済した施設や里親に対する感謝だろうか
それとも自分を捨てた罪深く愚かな女への憎しみだろうか

だが、そんなものが内なる力になるはずもない
施しはどこまでも施しであり、くだらぬ女の罪を責め続けてどうなるものでもない


ああ、たぶん
絶対的な自尊心なのだ
これがあってこその自分であり、これがあってこその生きるということじゃないか

だが、何をどうしたら手に入ると言うのか

卑しい女の股座から生まれコインロッカーに捨てられたという許し難い屈辱を刻印された自分を、どうしたら唯一無二のブランドとして自ら愛し得るのか

生きていくための絶対必要条件を満たすために、俺は十七歳になって尚、生死を彷徨い、無明の荒野を歩いている

ぶっ壊す

だが世の中をぶっ壊すとは言えない
たかだか自分を物のようにコインロッカーに捨てた愚かな一人の女の罪を、世の中に転嫁するほど惨めなことがあろうか

それでも、ぶっ壊すしかない
何を?自分を?

対象が何かはわからない
わからないがぶっ壊さなきゃならない

それだけは確かだ

どんな強烈な成功体験も今の俺には自らを糊塗する嘘でしかないのだから

俺は蒸せるような密室の中で
懸命に泣き叫んだ

誰もの感心の遠く外にあるコインロッカーの中から
自分を完全に包囲する生まれ落ちながらもすぐ死んで行く運命の底から
命が張り裂けるまで泣き叫んだ

ダチュラ

十七年前、不快極まる暗く狭い夏の箱の中に閉じ込められ、その暑さと息苦しさに抗して爆発的に泣き出した赤ん坊の自分、その自分を支えていたもの、その時の自分に呼びかけていたもの、どんな声に支えられて蘇生したのかを思い出した。殺せ、破壊せよ、その声はそう言っていた。破壊を続けろ、街を廃墟に戻せ

ダチュラだ

ダチュラとは見当識喪失を引き起こす毒物であり、神経兵器である
そこに、俺はいつしか自分を重ね合わせ、幻のような自らの自尊心の在り処を見つけたのだ
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この記事へのコメント

ママジャム
2021年02月17日 00:43
このブログを書いたあなたがコインロッカーベビイかと思うほど強烈な印象を受けます。