新春・初手

新春に読むには相応しいものだった
大場への一手を夢見ながら、二線への這いのような日々がいつしかずいぶん長くなった。黙って打ちつなぐことに、ハードボイルドな苦味をそれでも楽しんできた。狭まりつつある盤面と、出来上がりつつある人生の苦み哀切を十分に味わった鉄壁の厚み
この一局にすでに勝ちはない
勝ちはないが名局に転ずる展開と変化はある
どのみち打ち掛けで終わるのだから
負けもない
文化文政期から幕末にかけての囲碁の発展と隆盛、今日の囲碁の礎を築いた天才達の壮絶なドラマ
よくもこんなものが小説として書けたと畏れ入る
一時期、貧乏旗本の倅 勝麟太郎が井上家の道場に通いの弟子として将来を嘱望されていたというのも面白い
また、名誉名人・二十五世本因坊の趙治勲の書いた解説は透明感のある知性が行き渡っていた
週間文春に連載したというのも驚くし、これが文庫本になって書店に平積みされているというのも不思議というしかない
こんな本が売れるのだろうか
売れるとしたら、この国もまだ捨てたもんじゃないが・・
百田尚樹をただの調子者とは言えなくなった
彼もまた幻庵や丈和の戦いの囲碁や生き様に、自らを重ね合わせているのだろう
昨春の「錨を上げよ」に続いて
今年もまた「幻庵」と、彼の決意を秘めた強烈な小説で年が明けた
あちこちに打ち散らかした石が点在し、地など何処にもない俺の一局だが、廃墟にも見える残骸のあちこちで、今も時折砲弾が炸裂し機関銃の掃射音が聞こえる
俺もまた無知と無謀ゆえではあるが
地ではなく自分なりの戦いの人生を生きてきたではないか
勝ったところで誰も褒めてくれやしない
自らが作り出した廃墟の瓦礫の中、鼻先をかすめる硝煙に夢の匂いを嗅ぎながら
自分らしく果てるだけだ


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この記事へのコメント
完璧!